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🧠 仮言三段論法とは?
まず基本から確認しましょう。
仮言三段論法(Hypothetical Syllogism)とは、
「もしAならばB」「もしBならばC」ゆえに「もしAならばC」という仮定を用いた演繹的推論です。
しかし、今回注目するのはこの肯定形ではなく「否定形」、つまり「仮言三段論法の否定式」です。
❓ 仮言三段論法の否定式とは?
否定式には、以下のような2つの代表的な論理形式があります。
✅ 否定式①:否定肯定式(Modus Tollens)
形式:
-
もしAならばB
-
Bでない
-
ゆえにAでない
例文:
-
もし雨が降れば、地面が濡れる
-
地面が濡れていない
-
ゆえに、雨は降っていない
この推論は正当な論理形式であり、逆方向から仮定を否定していく重要な道具です。
❌ 否定式②:否定肯定の誤謬(誤謬の例)
形式:
-
もしAならばB
-
Aでない
-
ゆえにBでない(❌)
例文:
-
もし田中が来れば、パーティーは楽しくなる
-
田中は来なかった
-
ゆえに、パーティーは楽しくなかった(❌)
これは誤った推論です。
なぜなら、「楽しくなる」原因は田中以外にもありうるため、「Aでない」から「Bでない」は導けません。
この誤謬は「前件否定の誤謬(Denial of the Antecedent)」と呼ばれます。
🧭 否定式を見分けるポイント
論理形式 | 妥当性 | 特徴 |
---|---|---|
Modus Tollens(後件否定) | 妥当 | Bでない → Aでない |
前件否定の誤謬 | 不正 | Aでない → Bでない(誤り) |
重要なのは、結論が真かどうかではなく、推論の「形式」が妥当かどうかです。
🧩 否定式を用いたクリティカルシンキングの鍛え方
論理的に誤っている意見を見破るためには、この否定式の理解が重要です。
✍️ ワーク例:
誤った推論:
-
「もしこの薬が効くなら、熱が下がるはずだ。熱が下がらなかった。だから薬は効かない。」
→ 妥当(Modus Tollens)
誤った推論②:
-
「もし彼が犯人なら、指紋があるはずだ。彼は犯人ではない。だから指紋はない。」
→ 不正(前件否定の誤謬)
🏛 哲学・法学・人工知能分野への応用
仮言三段論法の否定式は、形式論理学だけでなく、以下のような分野でも活用されます。
-
裁判における反証:「証拠が出なかった」ことを根拠に仮説を否定する場合(Modus Tollens)
-
AIによる診断ロジック:「ある症状がなければ、特定の疾患ではない」などの排除論理
-
データサイエンス:「もしAならばB」という因果関係の否定検証(反実仮想)
📘 まとめ:否定式は“疑う力”の基礎になる
「もし〜ならば〜だろう」という仮定に対して、「そうでない場合」を考えることは、
私たちの思考をより柔軟かつ正確にします。
特にModus Tollens(後件否定)は、「Aではない」という結論を導くための鋭い論理の刃です。
一方で、前件否定の誤謬のように、一見もっともらしく見えるが論理的に誤った考え方も多く存在します。
だからこそ、論理形式に敏感になり、意見や主張を一歩引いて見つめ直す力が求められるのです。
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