トロリオロジーとは
「トロリオロジー(Trolleyology)」とは、倫理学や応用哲学の領域で用いられる思考実験群を指す言葉です。その代表例が「トロッコ問題」であり、命の選択を迫られる究極のジレンマを描くことで、私たちがもつ道徳観や意思決定の仕組みを浮き彫りにします。
トロッコ問題の基本構造
古典的なトロッコ問題は以下のように表現されます。
ある線路を走っているトロッコの先に5人の作業員がいます。このままでは彼らが轢かれてしまいます。しかし、あなたの目の前にはレバーがあり、それを引けばトロッコは別の線路に切り替わります。ただし、その線路には1人の作業員がいます。
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レバーを引けば「5人を救うが1人を犠牲にする」
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レバーを引かなければ「5人が犠牲になり1人は助かる」
あなたはどちらを選ぶべきか?
功利主義と義務論の対立
トロッコ問題は倫理学の二大潮流を象徴的に対立させます。
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功利主義(Utilitarianism)
「最大多数の最大幸福」を掲げ、より多くの人が救われる選択を良しとする。よって5人を助けるために1人を犠牲にするのが合理的とされる。 -
義務論(Deontology)
カント的な義務論では「人を手段として扱ってはならない」という原則が重視される。つまり、レバーを引くことで自分が積極的に1人を死に追いやる行為は不道徳とされ、レバーを引かない選択も正当化されうる。
バリエーションと応用
トロリオロジーの面白さは、状況を少し変えることで私たちの直感が揺らぐ点にあります。
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肥満男性を橋から突き落とすバージョン
ブレーキの効かないトロッコを止めるには、橋の上にいる大きな男性を突き落とすしかない。この場合、同じ「1人を犠牲にして5人を救う」状況にもかかわらず、多くの人が「突き落とせない」と答えます。 -
自動運転車の倫理問題
AIが運転する車が「乗客1人を犠牲にするか、歩行者複数人を犠牲にするか」という選択を迫られるケース。これはまさに現代社会におけるトロリオロジーの応用例です。
トロリオロジーが投げかけるもの
この思考実験の本質は「正しい答えを導くこと」ではなく、私たちの道徳的直感や価値観の矛盾を浮き彫りにすることにあります。
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人間は数だけでは判断できない
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行為と不作為の境界が揺らぐ
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AIや法制度の設計に直結する
トロリオロジーは単なる哲学的遊びではなく、現実の技術や社会の設計思想に大きな影響を与えています。
まとめ
トロリオロジーは、単なる「5人か1人か」の問題を超えて、私たちの倫理観の深層を問い直す装置です。功利主義と義務論の対立、そして自動運転など現代技術への応用を考えると、この問いはむしろ今だからこそ重要性を増しています。
「もし自分ならどうするか?」と考えることが、すでにトロリオロジーの核心に触れる行為なのです。
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