突然変異説の誕生
19世紀末から20世紀初頭にかけて、オランダの植物学者フーゴー・ド・フリース(Hugo de Vries, 1848-1935)は、進化の仕組みをめぐる研究で大きな転換点をもたらしました。彼が提唱した**「突然変異説(Mutationstheorie)」**は、ダーウィン以来の進化論に対して新たな視座を提示したものです。
ド・フリースはアサガオの仲間であるオオマツヨイグサを観察し、しばしば突発的に新しい形質を持つ個体が現れることを発見しました。これを彼は「突然変異」と呼び、進化の主要な原動力はこのような大きな飛躍であると考えました。
ダーウィンの自然選択説との違い
ダーウィン(1859『種の起源』)は、進化は「小さな変異が累積し、自然選択によって適応的な形質が残る」という漸進的なモデルを描いていました。これに対してド・フリースは、
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ダーウィン:連続的・漸進的な進化
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ド・フリース:不連続的・飛躍的な進化
という構図を打ち出したのです。彼の立場は、むしろ「種の分化は大きなジャンプによって起こる」と強調するものでした。
突然変異説の意義
現在の分子生物学的な知見からすると、進化は「小さな変異の累積」と「大きな突然変異」の両方によって進むと理解されています。ド・フリースの突然変異説は、現代遺伝学的な進化研究への橋渡しを果たしたと言えるでしょう。
さらに、1900年前後に再発見されたメンデルの遺伝法則と結びつき、のちの「ネオダーウィニズム」や「総合説」へと進化論が再構築される大きなきっかけとなりました。
現代から見た評価
今日では、ド・フリースが観察した「突然変異」の多くは、単なる染色体異常や遺伝的組み換えであることが分かっています。しかし、「偶然に起こる遺伝的変化が進化の素材になる」という洞察は、分子遺伝学の発展を先取りしたものでした。
つまり、ド・フリースはダーウィン的な漸進説とメンデル遺伝学の間に立ち、「進化の単位=遺伝子変異」という発想の萌芽を生んだ科学者だったのです。
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