Contents
学習性無力感とは何か？
学習性無力感（Learned Helplessness）とは、「何をしても無駄だ」と感じ、行動を起こす意欲を失ってしまう心理状態のことです。
この現象は、心理学者マーティン・セリグマン（Martin Seligman）によって1970年代に提唱されました。
セリグマンの実験では、繰り返し避けられないストレスを与えられた犬が、やがて逃げようとすらしなくなったことから、「無力感は学習される」という考えが導かれました。
この考え方は、うつ病・燃え尽き症候群・モチベーション低下などの心理的問題の説明に広く応用されています。
学習性無力感が生まれるメカニズム
学習性無力感が形成されるプロセスには、主に以下の3つの段階があります。
1. 予測不能な失敗体験
努力しても成果が出ない、やっても意味がないと感じる体験が繰り返される。
2. 結果を自分でコントロールできないと認識
「自分の行動と結果には因果関係がない」と考え、コントロール感を失う。
3. 挑戦や行動の回避
やがて、「どうせ何をしても無駄だ」と感じ、積極的な行動を放棄する。
このように、学習性無力感は「経験」を通して形成されるものであり、単なる怠けや性格の問題ではありません。
学習性無力感の具体例
教育現場での例
生徒が何度努力しても成績が上がらないと、「自分には無理だ」と感じてやる気を失う。
職場での例
上司に何を提案しても却下され続ける社員が、次第に意見を出さなくなり、受け身の姿勢になる。
人間関係での例
何度も無視や拒絶を経験した人が、「誰に話しても無駄」と感じて孤立してしまう。
学習性無力感がもたらす影響
1. モチベーションの喪失
本来できるはずのことにも挑戦しなくなり、自己効力感が低下します。
2. 感情面での悪影響
無気力感や無価値感が深まり、うつ症状や慢性的なストレスの原因となることがあります。
3. 認知のゆがみ
「どうせダメだ」「自分は何をやっても失敗する」といった非合理的な信念が固定化されやすくなります。
学習性無力感の克服方法
1. 小さな成功体験を積み重ねる
自己効力感（「自分にはできる」という感覚）を取り戻すには、達成可能な目標を少しずつクリアすることが効果的です。
2. 「できたこと」に意識を向けるリフレーミング
過去の失敗よりも成功体験を思い出し、現実的な自己評価を再構築します。
3. サポート環境の整備
教師・上司・カウンセラーなどの肯定的なフィードバックや励ましが回復を後押しします。
4. 認知行動療法の活用
否定的な思い込みを見直し、行動と結果の因果関係を再認識する認知行動療法が有効です。
学習性無力感を防ぐためにできること
教育・育成の現場で
-
結果だけでなくプロセスを評価する
-
失敗しても成長の機会だと伝える
-
生徒・部下の「できたこと」に注目し、言語化して共有する
社会的支援の重要性
学習性無力感は個人の責任ではなく、環境との相互作用の中で生まれる現象です。
支援者側の理解と関わりが、予防と回復のカギを握ります。
まとめ：学習性無力感を正しく理解し、希望を取り戻す
学習性無力感とは、「やっても無駄だ」と感じてしまう心理状態であり、放置すればモチベーションの低下やうつ症状につながります。
しかし、これは「学習された」ものだからこそ、「新たに学び直すことによって克服可能」です。
周囲のサポートや小さな成功体験を通じて、自己効力感を取り戻し、再び主体的に行動できるようになることが十分に可能です。
心理学の知見を活かし、個人も社会も「できること」を一歩ずつ広げていきましょう。
コメント